+僕のサンタさん+
「えっと…これは最後に混ぜれば良いんだよね…」
圭太は家に帰ってくるなり、早速ケーキを作り始める。
雑誌を片手に、作り方通りにケーキを作る。
「わんわん」
確認するように圭太が言うと、それに反応してラグナはそう返事を返す。
「それでこれを板に流して、オーブンで焼いてと…わぁぁ」
大人の手ならばそう重いとは感じないオーブンの皿も、まだ小さな圭太にしてみればかなりの重量がある。
ふらつく足取りで生地を流し込んだ皿をオーブンに入れ、スイッチを入れて生地を焼き始める。
「後は、チョコクリームだよね…生クリームにチョコレートを溶かして…っと」
「わんわん〜」
チョコレートの甘い匂いに誘われて、ラグナはその方向へと顔を近づけていく。
「あぁっ、ダメだよ食べちゃ…」
圭太はとっさにラグナの身体を持って、その場から離す。
「くぅん…」
「だめ! 出来上がるまで、静かにしててね」
「…くん」
すねるような鳴き声をしながら、ラグナはその場で身体を丸め込む。
そして数分後、圭太の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「出来たーー!」
その声に気がついて、ラグナは急いで圭太のもとへと向かう。
「わんわんっ!」
「あ、ラグナ。ほら見て、きれいでしょ?」
そう言う圭太の指差す先には、本に載っていたケーキと遜色ないものが目の前にあった。
唯一違うことは、甘い香りがそのケーキから出ていることだけだった。
「わんわんーー!」
「あははっ、ラグナも嬉しいんだ!」
ラグナは尻尾を激しく振って、嬉しさを表現していた。
「お兄ちゃんにも、早く見せたいなー」
「わん? わんわんっ」
圭太がそう言うと、ラグナは居間の方に顔を向けながら吠えはじめる。
「どうしたの? あ…」
ラグナの顔の先には、健のくれた携帯電話があった。
健は最近新しい携帯に変えてくれ、動画も撮れる機種になっている。
「これで写真とって、お兄ちゃんの所に送ろうか?」
「わんっ!」
圭太は急いで携帯を手にすると、カメラを自分の方に向けて撮影をする。
「あっ、お兄ちゃん…あのね、これ見てくれる!」
そう言って圭太は、カメラをケーキの方に向ける。
「凄いでしょ、僕が作ったんだよ! だからお兄ちゃん早く帰ってきてね」
「わんわんっ」
「ラグナも待ってるからねっ!」
圭太は撮影を止め、それを急いで健のメールアドレスに宛てて送信する。
「これで良しっと…お兄ちゃん、気がついてくれるかな?」
圭太とラグナは暫くの間、携帯の液晶を見続けていた。
すぐに返ってくるかどうかなんて解らないけれど、この携帯に健からメールが届かないかをずっと見ていた。
「うーん…やっぱりすぐには返ってこないかな…」
圭太が諦めて携帯を閉じそうになった時、着信音が小さなスピーカーから流れる。
「お兄ちゃんからだ!」
健からの着信は全て着信音指定をしてある為、すぐに解った。
圭太は慌てて携帯を開き、届いたメールを確認する。
「あっ、動画が届いてる…」
急いで届いていた動画を再生してみると、そこには健が映っていた。
「あ、圭太か? メール届いたぞ。ケーキ、作ったんだってな」
「あはは、お兄ちゃん緊張してるのかな?」
「わん」
健の口調や身体の動きはどこかぎこちなく、緊張していることが圭太にも解った。
「その…楽しみにしてるよ。今日は出来るだけ早く帰るようにするから…それじゃ」
恥ずかしそうにそう言うと、健はまるで逃げるように動画を終了させていた。
「えへへ…お兄ちゃん早く帰ってきてくれるって!」
「わーん」
圭太は嬉しそうな表情をしながら、ラグナのことを抱き寄せる。
「早く帰ってこないかなぁ…お兄ちゃん」
時計の針を見ると、まだ4時を表示している。
いつも健が帰ってくる時間は7時や8時であることを考えると、まだまだ先だとは思った。
けれど圭太の心は健と一緒にクリスマスを過ごせる喜びがいっぱいで、時間のことなど考えられなかった。
ただ健が帰ってくることが楽しみで、その時まで圭太の心はずっと喜びで満たされていた。
「お兄ちゃん…早く帰ってこないかなぁ…」
圭太はそう何度も言いながら、時々携帯を開いて先程の動画を繰り返し再生していた。