+僕のサンタさん+
「…ただいま」
健が家に帰ってくると、部屋の明かりは何もついていなかった。
「圭太?」
そう声を出しても、部屋の中からは何の反応もない。
「……」
健はゆっくりと廊下を歩き、台所のドアを開ける。
「メリークリスマース! お兄ちゃんお帰りなさい!」
「わんわんっ」
すると突然部屋の明かりがついて、圭太とラグナの大きな声が聞こえてきた。
「あ…あぁびっくりした…余り驚かせないでくれよ」
健は突然の出来事に驚きながら、落ち着いて返事を返す。
「えへへ、ごめんなさい。でもね、見てよこれ!」
そう言って圭太が台所の机を指差すと、そこには様々なご馳走が広がっていた。
「これ…どうしたんだ?」
「凄いでしょ? ね、凄いでしょ!」
圭太は満面の笑みを見せながら、大きな声で健に何度も聞く。
「全部…圭太が作ったのか?」
「うんっ! 僕お兄ちゃんと一緒にクリスマス過ごせるから…一生懸命作ったんだ!」
「…そうか…」
その言葉に健は少しだけ恥ずかしがりながら、小さく笑顔を見せる。
健のその小さな笑顔に、圭太はとても喜びを感じた。
健がそう小さく笑う時は、本当に喜んでくれている時…そう圭太は解っているから、嬉しくて仕方なかった。
「えへへっ…あ、早く食べよう! スープとかも冷めちゃうからさ」
「そうだな…ありがとう、圭太」
圭太と健はそのまま椅子に座り、食事を始めようとする。
「それじゃいただきまー…」
「わんわんわんっ!」
すると机の上に座っていたラグナが、大きな鳴き声で圭太の声を止める。
驚いて圭太がラグナの方に目を向けると、ラグナの目の前に置かれている皿には何も盛られていない。
「あ、ごめん…ラグナの食事よそってなかったね…」
「わーん」
「あはは…ラグナも一緒にお祝いしたいもんな」
健は慣れない笑顔を見せながら、ラグナの頭をなでてやる。
「わんっ」
圭太は慌ててラグナの皿に食事を入れると、目の前においてやる。
「それじゃ改めて…いただきまーす」
「いただきます」
「わんわんっ」
ほぼ3人同時に身体が動き、目の前にある物を口に運んでいく。
「どう…お兄ちゃん。美味しいかな?」
圭太は健が料理の一つ一つに手をつけるたび、そう同じ質問を繰り返す。
「あぁ…美味しいよ、圭太」
健も圭太の言葉に、嫌がる素振りも見せず何度も同じ返事を繰り返していた。
「ほんとっ! 良かったー」
何度も何度も繰り返し言われる言葉なのに、その度に嬉しくなる。
健が喜んで自分の作った物を食べてくれることが、圭太にはとても嬉しかった。
「まだまだ沢山あるからね!」
「わんわん」
圭太がそう言うと、横にいたラグナが吠え始める。
「えっ…ラグナも?」
ラグナの皿に目を向けると、既に皿の中には何も入っていなかった。
「あはは…ラグナももっと食べたいよな」
「わん」
健の言葉に、ラグナはひとつ返事で答える。
「もうー…お兄ちゃん、あんまりラグナのこと甘やかしちゃだめだってば」
「せっかくのクリスマスだもんな…ちょっとくらい、わがままさせても良いだろう」
「わんー」
ラグナは自分の味方をしてくれる健に対して、甘えるような声を出す。
「もうっ、ラグナってば…」
そう言いながらも、圭太の顔はどこか嬉しそうだった。
こうして3人揃って食事をすることが久しぶりだったこともあるし、こうして絶えない会話をしながら食事をすることが楽しかった。
「はい。ちゃんと残さず食べるんだよ」
「わんっ!」
圭太は健と会話をしながら食事をすることは毎日出来ないから、こうして出来る時を大切にしたいと思っていた。
「お兄ちゃんもいっぱい食べてね!」
圭太の表情からは笑顔が絶えることがなく、健もその表情を嬉しそうに見ながら食事をしていた。