+僕のサンタさん+
健は圭太の指を手当てしてから、落としたケーキをきれいに片付ける。
圭太は居間の椅子に座り、さっきまでの元気をなくして黙り込んでしまう。
「圭太…もうそんなに落ち込まなくても大丈夫だから」
健がそう言っても、圭太は下にさげた頭を上げようとはしない。
「でも…僕…」
「……」
何を言っても落ち込むことを止めない圭太に、健はどうして良いのか困惑してしまう。
「わんわんわんっ!」
「どうしたんだ…ラグナ」
少しすると突然ラグナが大きな声で吠え出し、健は何かあったと思いその方向へと向かう。
ラグナは部屋の窓際で吠えていて、健はその窓に目を向ける。
「…雪?」
そこには暗い空に、白い粉が少しだけ降り注いでいた。
「わんわんっ」
ラグナは健の方を向くと、何かを訴えるように吠える。
「あぁ…解ってるよ」
健はラグナの言葉を理解してか、落ち込む圭太の方へと向かっていく。
「お兄ちゃん…ラグナどうしたの? いきなり吠えたりして…」
ラグナは普段家の中では静かなことが多く、さっきのように大きな声で吠えることは滅多にない。
「良いから…こっちに来れば解るよ」
そう言って健は圭太の腕をつかむと、ゆっくりとラグナのいる場所へと歩き出す。
「ラグナ、どうし…あ」
圭太も窓の外の風景に気がついて、その光景に釘付けになる。
そしてさっきまでの涙を忘れ、圭太は無邪気に笑いだす。
「わぁぁ…お兄ちゃん、雪だよ。雪が降ってるよ!」
「あぁ…そうだな」
健は圭太の横に立って、一緒に窓の外に目を向ける。
「凄い…凄いや…」
暗闇の中に、真っ白い粉雪が延々と降っていく。
「……」
健はさっきまでのことを忘れて無邪気に笑う圭太に安心して、小さく笑顔を見せる。
「キレイだなぁ…」
圭太はただそう言いながら、窓の外をずっと見ていた。
「…なぁ圭太…その、何か欲しいものはないか?」
少しすると、健は思い出したようにそう口を開く。
「えっ…どうして?」
突然言われたことに、圭太はきょとんとした表情で健の方を向く。
「いや…今日はクリスマスだから、何か欲しいものがあれば…と思ったんだ」
健の言った言葉を理解すると、圭太の頭の中にはひとつのものがすぐに思い浮かんできた。
「本当に! じゃあ僕ね…あ…」
今日の昼間に恵介に見せてもらった、『ボクモン』…凄く欲しくて欲しくて、仕方のなかったものが圭太の頭に、はっきりと描き出されていた。
「うぅん! 僕欲しいものなんて別にないよ」
しかし圭太はそのことを健に言うことなく、そう返事を返す。
「そうか…別に遠慮することはないんだぞ?」
圭太の返事に、遠慮をしているのではないかと思った。
しかしそう健が言っても、圭太からの返事が変わることはなかった。
「うん! 本当にないよ!」
本当は欲しいものと言われれば、キリがないくらいに出てくる。
『ボクモン』もそうだし、他の新しい玩具もいっぱい欲しい。
けれど圭太は、健からものを貰う気持ちにはなれなかった。
『ボクモン』や玩具は、お金があればいつでも買うことが出来る。
けれど健が圭太に与えてくれるものは、お金ではどうすることもできないこと。
圭太にとってこの上ない幸せを、健から貰っている…
もしここで自分の欲しい物をいえば、ただのわがままになってしまう。だから圭太は、それ以上のことを言うことができなかった。
「その代わり、その…僕今日はおにいちゃんと一緒に寝たいな…」
けれど、せめて自分のことを好きであって欲しいとは思う。ずっとずっと、自分と一緒にいて欲しいと思う。
「それくらいだったら、いつでも一緒に寝てあげるよ」
「本当に! 絶対、約束だよ!」
それが自分にとって、一番欲しいものだから…とても暖かい、優しさが…