少年調教日記
-現実-
朝になり、雅哉はやつれた表情のまま学校へと向かう。
もう眠れない日々が何日も続いていて、顔はまるで死人のようになっていた。
「あ…おはようございます…」
雅哉は職員室に入るなり、既に室内にいる数人の同僚教師にそう挨拶をする。
「先生…大丈夫ですか? 顔色が余り良くないようですけど…」
「えっ…あぁ…大丈夫です」
心配そうな同僚教師の言葉にそう返事をして、雅哉は自分の机へと向かう。
突然そんな顔になれば不信がられるのが当然なのだが、今はそんな顔になってしまう理由がしっかりとある。
自分がさらった、真がもう何日も行方不明になっているから…
誰も雅哉がさらったとは思ってもいないし、むしろ大切な生徒が学校から帰ることなく突然いなくなってしまい、大きな責任を感じている…
周りからは、そうした目で見られていたからだった。
当然最初は罪悪感など微塵も感じなかった雅哉にしてみれば、そんな状況は好都合のほかなかった。
しかし雅哉は自分の真に対する気持ちが揺らぎ始めるようになると、この場所に来ることに怯えるようになっていた。
日を追うごとに、少しずつ…そしてそれは、もう限界にまで達していた。
「雅哉先生」
「っ! あぁ…武山先生ですか…」
雅哉は突然声をかけられ、身体を大きくビクつかせながら声をかけてきた人物の方へと向く。
「大丈夫ですか?」
余りにも大きな雅哉の驚きように、声をかけた教師が不思議そうな顔を見せる。
「あ…いえ…別に、なんでもないです…」
とっさに顔を下に伏せ、落ち着いた声で返事を返す。
「気になさらないで下さい…真君、まだ見つからないんですから…お気持ちはお察しします」
そう言って教師は雅哉の机の上に、緑茶の入った湯飲みを置く。
入れたてなのか、薄緑色をした液体からは湯気が出ていた。
「…有難う御座います…」
雅哉はそう言うと、目の前に置かれた湯飲みを口にする。
温かな感触が喉を通っていき、少しだけ気持ちが落ち着くような気がした。
「はぁ…」
「落ち着きましたか?」
小さく笑顔を見せながら、教師はそう雅哉に声をかける。
「はい…有難う御座います…」
それでも決して、顔をその教師の方に向けることだけはしない。
顔を見られると、自分の隠していることが全てばれてしまうような気がしていたからだった。
「でも…真君、本当にどこ行っちゃったんでしょうね…」
「っ! …そ、そうですね…」
目線を外に向けながら言う教師の言葉に、雅哉はぎこちない返事をする。
「真君がいなくなってから、学校…凄く静かになっちゃいましたしね…」
教師は真がいた時のことを思い出しながら、しみじみと語るように口を開く。
「……」
雅哉は教師の言葉に、口を開くことはなかった。
…口を開くことが出来なかった。
真は、自分の家にいるのだから…自分の家の地下で、自分を求めるだけになっているから…
「真君って、学校のムードメーカーって言うか…そんな感じの子でしたからね…」
「…ムード、メーカーですか?」
教師の言葉に、雅哉は下を向いたままそう聞き返す。
確かに真は元気があるけれど、そう考えたことは一度もなかったからだった。
「私もいなくなって解ったんですけど、真君って凄く明るくて、元気が良くて…だからなのかも知れないですね…真君が人気者だったのって」
「明るくて…元気が良い真…」
教師の言葉に、雅哉は自分が愛した真の姿を思い描く。
今自分の家にいる真ではなく、学校にいた時の真の姿…自分が惹かれ続けた真を…
「真君がいたから、学校が明るかった…そんな気がするんですよね…」
「…真」
雅哉の死んだような瞳に、僅かに明るさが戻ってくる。
その瞳の先には、姿なき自分の妄想で作られた真が映っていた。
「真君…無事でいると良いんですけどね…」
しかし教師のその一言に、雅哉は現実へと連れ戻されてしまう。
「っ! そ、そうですね…」
雅哉の瞳から明るさが完全に消え、意気消沈した声で返事をする。
「あっ…すみません…先生が一番心配してるのに、こんなこと言ってしまって…」
教師は、申し訳なさそうに雅哉に言う。
「…いえ…良いんです」
そう返事を返すと再び自分の気持ちを落ち着けようと、手に持った湯飲みを口につける。
「とにかく…元気出してくださいね…」
「…はい」
一言だけ返事を返すと、教師は雅哉のもとを離れていった。
「…真」
そして一人机に座り込み、再び自分の頭の中で真の姿を思い浮かべる。
自分が惹かれた真の姿…時間のある限り雅哉はその姿を思い描き、小さく笑顔を見せていた。