少年調教日記
-崩壊-
「…真…」
数日後、雅哉は突然落ち着きを取り戻していく。
頭の中で、『もしかしたら…』と言う思いが生まれてきたからだった。
自分の目に映ったものは、もしかしたらただの夢かも知れないと…
しかしその目には生気を感じ取ることが出来ず、まるで死人のようにも見えた。
「…真…真…」
カーテンで完全に仕切られた部屋は、昼か夜かもわからないほどに暗い。
雅哉は自分の全身に被っていた布団を取り払うと、その場にゆっくりと立ち上がる。
そしてベッドを降りると、黙ったまま真のいる地下室へと歩いていった。
「……」
右手にはドアの鍵を持ち、廊下を歩く足音すらも聞こえてこない。
雅哉はふらふらとした足取りで、鍵を閉めた扉の前にやってくる。
「……真」
ドアの鍵を鍵穴に挿して、ゆっくりと右に回していく。
すぐに『カチッ』と言う音に合わせてドアのロックが解除され、雅哉はドアノブを回してドアを開ける。
金属のこすれるような音を出しながら、扉はゆっくりと開いていく。
ドアの先は暗くて見ることが出来ないが、入り口近くだけは廊下の明かりで見ることが出来た。
「……」
雅哉の目に映っているのは、暗く途中で途切れているように見える階段。
毎日毎日降りていくのが楽しみだった階段が、今は地獄への道のりに見える。
「……」
雅哉は口を開くことなく、ゆっくりとその階段を降りていく。
一段降りるたびに足音が響き渡り、その音を耳で聞き取るようにしながら雅哉は歩く。
廊下の明かりは完全に見えなくなり、目の前にはただの暗闇しかない。
それでも雅哉はゆっくりと、階段の位置を確かめるようにしながら降りていく。
「…真」
短い階段を降りきる時には、雅哉の目は完全に暗闇に慣れ、わずかながらも周りの状況が理解できる。
そして同時に自分の鼻の中へと、もう嗅ぎ慣れた匂いが入り込んできた。
何度となく放出した精液の匂いは、閉め切っていた部屋に充満している。
「…ふぁ…せんせ?」
足音と雅哉の小さな声に気がついたのか、真はゆっくりと音の聞こえた方へと歩み寄っていく。
「真…」
その声に雅哉の表情が僅かに微笑み、真が自分のもとへとやってくるのをその場で待っていた。
「せんせいだぁ…せんせいだぁぁ…」
ひたひたと言う裸足で液体の上を歩く音と、何かの機械音と共に真の声がはっきりと耳に入る。
真は自らのアナルにバイブを差し込んだまま、雅哉のもとへとやってきた。
「……」
全身は数日間放置していたこともあってかやせ細っているものの、その姿は確かに真のものであることに間違いはなかった。
「せんせぇ…きてくれたぁ…」
真は雅哉の姿を視界の中に収めると、嬉しそうに笑いかけてきた。
「真…」
そんな真の笑顔に、雅哉の表情から大きな笑みがもれる。
「せんせぇ…」
「真っ…」
そして雅哉はゆっくりと真の方へと向かい、そのただでさえ小さな身体を抱き寄せる。
「せんせ?」
「…真…大好きだよ…」
強く抱き寄せながら、雅哉はそう口を開く。
「うん…ぼくも、せんせいだいすきぃ…だからー、はやくしよぉ…」
…返事に変化はみられなかった。
真は雅哉の言葉に笑顔を見せ、数日前と同じような返事を返すだけ…
「…真」
僅かな望みすらも、崩れていった瞬間だった。
もしかしたら、真が壊れたのは嘘かも知れない。
もしかしたら、真が壊れたのは夢かも知れない。
もしかしたら…もしかしたら…
それを信じて…最後の望みをかけてやってきたこの場所で、その全てが目の前の現実によって完全に崩れていく。
「せんせぇ…はやくぅ…」
けれどひとつだけは、自分の望むものがあった。
それは真の笑顔…その笑顔は、確かに自分だけのものだった。
雅哉が欲しかった真の笑顔を、自分だけにくれる。
たとえその笑顔が自分の求めていたものとは違ったとしても、真は間違いなく自分にだけ笑いかけてくれている…
「…解ってるよ…でも、少しだけ待っていなさい…」
そう言って雅哉は真の身体を放すと、降りてきた階段を駆け上がっていく。
そして自分の部屋へと戻り、机の中を荒らすかのように探り始める。
「…あった…」
雅哉は自分の机の中で何かを見つけると、ひとつをポケットの中へ、もうひとつを右手に持つ。
同時に別のポケットの中に入っていた地下室への鍵を取り出すと、それを荒らした机の引き出しへと入れる。
「…もう、いらないものだからな…」
そう言って引き出しを閉めると、雅哉は走るように地下室へと向かって行った。