+抱いて欲しい+


「あっ…だから、俺っ…俺のっ…その」
そんな裕明の意地悪な質問に、龍平はただもじもじするばかりだった。
何が言いたいのかは、龍平自身もわかっている。
しかしその言葉だけは、恥ずかしくてどうしても口には出来なかった。
「…口で言わなきゃ解らないよー…」
ニヤニヤと笑いながら、裕明はそう口にする。
『あぁぁ…龍平が、あんな顔してる…』
とにかく楽しくて仕方がなかった。
冷静な自分であれば龍平にこんなことさせはしないと思うはずなのに、今はとにかく困らせてやりたいと思う。
恥ずかしがって、顔を赤くして、困っている姿を見るのがとても楽しい。
「どーして欲しいのかなー? 龍平」
わざとふざけるような声を出して、龍平のことをもっと困らせてやろうとする。
「だっ…だからっ…あのっ…」
そんな裕明の狙ったとおりに、反応を返してくれた。
『龍平…かわいいよぉ…龍平…』
それがより一層に、裕明の心を躍らせる。
「どーして欲しいのかなぁ…」
「あのっ…欲しい、です…」
そのままの状態がずっと続いても良いと思っていたが、我慢が出来なくなったのか、龍平の方から口を開いてきた。
その声はとても小さくて、近くにいる裕明の耳にも届くか解らないほどだった。
「んー? だからどうして欲しいのかなぁ?」
しかし裕明には、その声がはっきりと聞こえていた。
それでもわざと聞こえない振りをして、龍平にはっきりとした声で言わせようとする。
そんな裕明の声と態度はあからさまに怪しく、はたから見れば解りやすいといえる。
ただ既に限界にきている龍平には、それを見破れるだけの余裕はどこにもなかった。
「だから…俺、欲しくて…そのっ…」
『あぁぁ…龍平が、欲しいって言ってる…』
「あー…もっとちゃんとした声で、はっきり言えよな」
心の中では十分すぎるほどに満足しても、やっぱりそれ以上に言わせたくなる。
もっともっとはっきりとした声で、恥ずかしい台詞を言わせたい…
嫌われるかも知れないとは思いながらも、やはり欲望には勝てなかった。
「お、俺の…俺の中に…裕明さんの…」
そんな裕明の隠した思いにも、龍平は素直に応えてきた。
発する声はだんだんと大きくなり、内容もはっきりとしてくる。
「…俺の何が欲しいの? ん?」
外観は平静を装っていても、裕明の心の中はもう破裂しそうなほどバクバクしていた。
その言葉を、龍平が口にしたら…口にしたら…口に…
「だからっ…裕明さんの、俺の中に入れてよっ!! 我慢…できないよぉ…」
そう思った瞬間、龍平は大きな声でそう口にしてきた。
「うあぁっ…龍平…がはっ!!」
心の中で抑えきれない衝動が身体を仰け反らせ、鼻からも僅かな血が流れる。
鼻の下を少しだけ赤くしながら、裕明はもう死んでも良いと思っていた。
「あっ、裕明さんっ!! だ、大丈夫?」
突然のことに驚いて、龍平は心配そうに声をかけてくる。
「うあ…だ、大丈夫大丈夫…あははははは」
乾いた笑い声を出しながら、その身体をゆっくりと龍平へと近づけていく。
「あ…裕明さ…んっ」
「…龍平の望みどおりにしてやるよ」
そして唇に軽い口づけを交わし、そう一言口にする。
「はやくっ…頂戴。裕明さんの…」
触れる程度のキスでも、今の龍平には必要以上の気持ちよさを与える。
「急かさなくたって、すぐに入れてやるよ…」
裕明は冷静な言葉を発しながら、その心の中は完全に焦りでいっぱいだった。


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