+一年に一度だけ+
Scean5


「んっ…」
織人は自分のベッドの上で目を覚ます。
気がつかないうちに寝てしまったようで、外はもう暗くなっていた。
「あれ…せい、や?」
横には星夜がいなく、荷物をまとめる星夜の姿があった。
「あっ、星夜、もう…時間?」
「…一時間後には駅に行かないと、今日中に帰れなくなるからな…」
「まっ、待ってよ」
織人はあわててベッドの上から起き上がり、裸のまま星夜に抱きつく。
「わっ…織人?」
織人は無言なまま、抱きしめる腕を強くしていく。
星夜は何が言いたいのかということをすぐに理解し、
なだめるように話す。
「織人…しょうがないよ…俺らまだ子供だし…」
「やだ…」
「…織人」
「やだ…」
織人は星夜を抱きしめながら、同じ言葉を繰り返す。
星夜は困惑の表情を見せながらも、織人の話し続ける。
「織人…今は無理なんだよ…一年に一回しか会えな…」
話そうとする星夜をさえぎるように、織人は大きな声で言う。
「やだっ! 俺もういやだよっ!」
「…織人…」
「俺もう耐えられないよ!
好きなのに…好きなのに一年に一回しか会えないなんて…
そんなのっ…もうっ…」
「……」
星夜は無言なまま、織人の言うことを聞いていた。
「もっと星夜と話したい。もっと星夜と一緒にいたい。もっと…もっと…」
織人の目からは涙があふれ、抱きしめる腕もどんどん強くなっていく。
「俺…俺、星夜のこと好きなだけなのに…
一緒にいたいだけなのに…なんで…こんなの、酷いよ…」
星夜は自分の胸で泣きじゃくる織人を離し、優しく話しかける。
「…織人は…こうして俺に会うの…嫌か?」
「嫌じゃない…けどっ、もっと一緒に…ひっ、えっ」
「俺も…お前と会うの楽しみにしてるんだ…お前はどうなんだ?」
「…楽しみに決まってるよ、一年で一回、星夜に会える日なんだもん…」
その言葉を聞くと、星夜はかすかに笑い顔を見せながら言う。
「…それで良いじゃないか…一回会えるならそれで…」
「良くないよ…俺、俺…」
星夜の言葉をすぐに否定し、顔を横に背けながら言おうとすると、
星夜は織人が何を言いたいのかをすぐに理解し、織人を抱きしめて言う。
「…俺だってお前とずっといたい…」
「あっ…せい、や…」
「離したくない…俺だってお前とずっといたい…」
「……」
流れていた涙が止まり、黙って星夜の言うことを聞いていた。
星夜の抱きしめる腕が、言葉を言う度に強くなるのが解る。
「けど今はそれしか出来ないんだよ…」
冷静な星夜の言葉に、織人も少しだけ落ち着きを取り戻す。
「解ってるよ…無理だって解ってるよ…けど…」
言わずにいられなかった自分の気持ち…
それが溢れ出して止まらなかった。
「織人…俺な、お前と会うの本当に楽しみなんだ…」
「星夜…」
星夜は織人を抱きしめたまま、ゆっくりと話す。
「俺はこうして一年に一回会える日…本当に楽しみにしてる。
大好きなお前と、ずっといられる一日…
この日が来るのを、毎日楽しみにしてる」
「…俺もそうだよ…毎日毎日星夜のこと考えて、
早く会える日が来ないかって考えて…」
その言葉を聞き星夜はわずかに笑い顔を見せるが、
すぐに真面目な表情へと戻り話し続ける。
「けど…もし織人がそれ…辛いってんなら、俺お前と別れる…
俺はお前が好きだけど、それしか方法ないから…」
その言葉を聞いた瞬間、織人の落ち着いた表情が、
再び顔を歪ませ泣きそうな表情へと変わる。
「そんなのっ…そんなの無理に決まってるじゃんか!
俺星夜のこと…星夜のこと好きだもん!
そんなのっ、そんなの絶対嫌だよ…」
大粒の涙を流し出す織人を、今度は星夜が強く抱きしめる。
「…俺もそれは嫌だ…」
「せい、やぁ…」
星夜は抱きしめる腕を強くしながら、泣く織人に話しかける。
「もう少ししたら、絶対2人だけでずっといられる時が来るから…
だから、それまでは…」
この先絶対に2人だけでいられる保証なんてどこにもない。
けれど星夜はそう言うこと以外に、織人を慰めることが出来なかった。
「えっ…ひっ、く…えっ」
そのまま織人は、星夜の帰る時間ギリギリまで胸の中で泣き続けていた。
そして泣きじゃくる織人をなだめるよう、星夜は時々織人の唇にキスをする。
何度も何度も繰り返しキスをしていた。


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