+雨+
「くっそ…あのくそオヤジ、思いっきりブン殴りやがって…」
クライドは人気の少ない道を歩く。衣服には所々切りつけたような傷が見え、衣服の汚れも相まって、その先には色白い素肌がはっきりと見える。
「ちっ…いってぇ…」
時々顔を歪ませて、痛みをこらえるような声をあげる。
クライドの左手は右の肩に当てられており、その右肩から下の部位は力なくぶら下がっている。
そして手を当てている部位の下からは、赤いものが一筋の線のように垂れ下がっていた。
それは灰色に汚れた白い衣服にも染みていき、線が先に進むたびに赤い色は太く、そして広がっていた。
「これくらい…いいじゃねぇかよ、ケチくせぇ…」
途切れ途切れに、クライドは愚痴を一人言い続ける。
力なくぶら下がる右手の先には、透明のビニールに入れられたものが今にも落ちそうに揺れていた。
油分を含んでいるのか、内容物はわずかに光沢を放っている。
その袋には大きな文字で、誰でも解るようにはっきりと『クリームパン』と書かれていた。
「…パンの一個取られた位で、よくあそこまで躍起になれんな…バッカじゃねぇ…」
クライドは自分のしたことに対する罪悪感は、何一つなかった。
むしろ自分に対して攻撃を仕掛けてきた人物に向けての、憎悪の感情しか感じていない。
「くそぉっ…!」
金のない自分が生きていく為には、盗みを働くしか道はない。
生きていくための行為に対して、罪を感じる必要などクライドにある訳がなかった。
「もうちょい、か…疲れたけど、こんなトコで倒れるわけにもいかねぇからな…」
そう言ってクライドは、疲労でなかなか上がろうとしない足を引きずるように歩き続けていた。