+雨+
「ついた…うぁっ…」
クライドは光など一筋も差し込まないような場所にやってくると、目の前にある黒いベッドのようなものに倒れるように横たわる。
一瞬感じる大きな痛みに苦痛の声を上げるものの、その後は落ち着いた吐息を繰り返す。
「はぁ…疲れた」
クライドの横たわっている場所の辺り一面には、空き缶や汚れた袋はもちろん、目に見えてもう使用することの出来なくなっている電化製品や、元が何であったかを特定することが出来ないようなものまでが散乱していた。
そしてそれは今クライドの横たわっている部位に最も多く、それが小さなベッドのように形成されているようだった。
「くっせ…でも寝心地は悪くねぇからな…」
そう言って仰向けになり上を見上げると、夜なのにどことなく灰色をした空が目に入ってきた。
今いる場所には屋根こそあるものの、大きな穴が無数に開いていて外の状況はダイレクトに解る。
いつもなら見えるはずの星の姿は何もなく、まるで空が動いているように見えた。
「…雲? …雨、降るのかな…ぃって」
少しでも右の手を動かそうとすると、全身に一瞬だけ強い電流が流れるような痛みが走る。
「これじゃ…少し休まないと無理か…」
すると右手を動かすことを止め、左手を動かし始める。
そして今まで右手に持っていたパンの袋を手に取ると、口を使って封を開ける。
開けた瞬間に甘い香りが鼻に入り込んできて、嫌でも食欲をそそられる。
「…いただきます」
妙に丁寧だと感じる言葉を口にすると、クライドはパンをゆっくりと口に運んでいく。
本当は、むさぼるようにこのパンを食べたいと思う気持ちがある。
しかしそうすると余計に食べ物を欲してしまうことを、クライドは一番良く解っていた。
だから出来るだけ欲を抑えて冷静に、そして味わうように喉を通していく。
「んっ…んむっ…ん」
口の中に甘いクリームとパンの味が広がり、それが唾液とともに喉を通り過ぎていく。
それが完全に体内へと入り込むだけで、お腹が重くなるような気がした。
でもそれは、決して嫌な重みではない。
身体全体が、まるで喜びを感じているかのような感覚を覚える。
その口に含むひと口が嬉しい…身体はその気持ちを、クライドの頭へと伝えていた。