+雨+
「いただきました…はぁっ」
クライドはパンを全て食べ終えると、入っていた袋を地面に投げるように捨てる。
そして再び仰向けに倒れ込み、空を見上げる。
天気に変化は見られない。ただ薄暗い空が左から右へと、急ぐように移動しているようだった。
「…寒くなってきた…な」
上にかける毛布などあるはずもなく、クライドは寒さで僅かながらも身体を振るわせ始める。
すると身体を少しだけ横に向け、その場で身体を丸め込む。
「これならまだ、大丈夫そうだな…」
身体に触れる手には、自分の体温が伝わってくる。
思っている程に温かくなくても、今のクライドには十分すぎるほどだった。
しかしそんな温かさも消え失せるほどに、外の気温はどんどんと下がっていく。
そしてクライドの思った通り、上の方からポツポツと雨の降る音が聞こえてきた。
最初は滴るように落ちているだけだったのに、時とともにそれは連続性を早めていく。
「雨、降って来やがった…」
小さな音は轟音へと変わり、耳障りな音と共に辺りに水が落ちてくる。
クライドは出来るだけ濡れないようにと、まだ大きく屋根の残っている部分へ移動しようと起き上がる。
「…めんどくせぇ…」
すぐにその場から離れて歩き出すと、暗くて目に見えない出来たばかりの水溜りが音を立てる。
同時に足元は水で濡れていき、何故だか動かそうとする足に重りをつけさせられているような錯覚を感じた。
「っと…あの辺で良いか」
まだ水で濡れておらず、上からも水の降ってこない場所を見つけると、クライドは足早にその場所へと向かう。
そしてその場に立つと、まるで犬のように全身を震わせて、身体についた水滴を飛ばしていく。
「結構強い雨だな…今日のは結構長く降る、かもな…」
轟音を耳にしながらそう言うと、クライドはその場に座り込む。
本当は横たわりたいとは思うものの、その場所は全身を覆えるほど雨を防ぐ大きさはなかった。
「仕方ねぇ…か」
ため息をつきながら、全身をその場で丸め込む。
「…寒い、な」
さっきまではそうすることで温かさを感じていたのに、今ではもう外気温とさほどの変化を感じられない。
水で濡れた身体は、急速にクライドの全身を冷やしていた。
「寒い…寒い、よ…」
微弱な震えは、だんだんと大きさを増していく。
クライドは限界まで身体を丸めて、必死に寒さから身を守ろうとする。
「…誰か、来てよ…助けてよ…」
今までに何度同じ言葉を繰り返し、空を切っていっただろう。
もうその言葉を口にしても、意味のないことをクライドは良く解っている。
それでも、その言葉を口にせずにはいられなかった。